ますゐ全メニュー制覇プロジェクト<イントロダクション>

ますゐ全メニュー制覇プロジェクト(その1)

まずは、おかでんが2年ほど前、このサイト用に「ますゐ」を紹介しようとして執筆していたまま放置されていた文章を読んでもらおう。やや文章の芸風が今と違って粗雑なのは、ご愛敬。

おかでんは広島出身なんじゃ。広島弁は全部忘れてしもーて、意識しとってもよぉしゃべれんくらい東京弁に染まってしもーたんじゃけど、それでも出身は広島なんよ。

社会人になってから、特に初対面の人には「ご出身は?」なんて聞かれる事が増えた。「今日は暑いですね」と同様、話題が無いときの急場しのぎのあいさつなんだろう。・・・ってな事で、「おかでん=広島」という構図、おかでんを知る人の大半が知ってるという状態なんである。

さて。

今度広島に旅行するんだけど、何を食べればいい?何がお勧め?・・・これ、東京の都会もやしっ子からよく質問される。

知るか、そんなの。

決まって、こうつれない回答で済ませる事にしてる。そうじゃなけりゃ、地元民しか知らない、マニアックだけど安くておいしいお店を紹介する。そりゃそうだ、何が悲しゅうてその地に住んでいながら、観光客が行きたがるようなお店に精通してにゃならんのか。

こういう時、「何がお勧め?」なんて聞いてくる輩の期待する回答っつーのはだ、

「広島だったらやっぱり牡蠣だねえ、平和公園のすぐそば、元安川に浮かんでいる船の上で牡蠣料理を楽しめるよ」
だとか
「宮島行くんだったら、JR宮島口の駅前に穴子飯を食べさせてくれるお店があるから、食べるといい」

と、観光ガイドか貴様はーーーッ、と軍曹殿にさや付きサーベルの先で思いっきりしばかれるような回答なんだろう。それだったら、最初から本屋で「るるぶ」やら何やら、財布の許す限り買いまくるか脚力の許す限り立ち読みすればよい。

「何がお勧め?」って質問には、「観光ガイドには載っていないような穴場スポット」について教えて欲しいという意味が含まれているのだろう。しかし、本当に穴場な場所を教えると、大抵その人は「ふーん」と煮え切らない顔をする。そりゃそうだ、いくら観光ガイドにのっていないお店を希望するからといって、わざわざ広島くんだりまで旅行して「安くてボリュームのある肉野菜炒め定食が食べられるお店」だとか、「カレーライスがおいしいお店」に行くのはばかばかしい話だから。

つまるところ、旅人っつーのはコストであるとか味とかそういうもの以前に、「旅情」を満喫したいのだな。「お前、それは安直過ぎないか」ってくらい、ストレートに「名物」と名の付くものに飛びついてしまう。だから、こうなると「名物」って名乗ったもん勝ちの世界。その地での特産でないクセに、さも名物みたいに商品を売っているお土産屋がどれだけあることやら。それでも、ついつい買ってしまうのが旅人の性ってヤツでして。

ほら、観光地の滝とか沢なんて見に行ったら、ほとんど必ずヤマメの塩焼きが売られているじゃない。あれなんか典型的な例だな。ヤマメなんて清流で川のごく上流にしか生息しない魚。・・・おいおい、この川、どう見てもヤマメなんていねーだろ、って場所で堂々と売られていたりなんかする。

そんなところでヤマメを一匹500円なにがしで購入する人々っつーのは、単純に「ああおなか減ったな、ヤマメ食べたいな」と感じている時に偶然にも目の前にヤマメの塩焼き屋台が登場、満を持して購入・・・なんて事はあり得ないわけだ。現実的には、「ヤマメの塩焼きを食べる行為が旅の思い出になる」、といった旅の記念トータルパッケージの一環として、旅のキーワードとして「食べる」行為をしているのに過ぎない。

そんな事で、僕は「広島でお奨めのお店があったら教えて!」という、旅情で目をキラキラさせているトラベラーに対して、必ず

「『ますゐ』に行け」

と一言、厳かに伝えるようにしている。すると、「ますゐ?何屋?」と必ず聞き返されるので、

「精肉屋直営の食堂だ。トンカツが美味いぞ」

と、ますます自信たっぷりに伝えてやる。心持ち、胸を張って回答しているかもしれない。

すると、あちらは100%「そんな店を紹介して欲しいんじゃないんだけどな」と、がっかりした表情をするのが愉快だ。馬鹿め、ますゐを知らずにそんな顔をするんじゃない。

B級グルメの王様として、広くB級愛好者に認知されているお店として「横浜・市場食堂」「名古屋・喫茶マウンテン」「奈良・とんまさ」「大阪・喫茶Y」などがあるわけだが、それらの「次点」としてぜひ推挙したいお店が、広島の「ますゐ」だ。

当時書いた文章はここで終わっている。愛するますゐをどうやって紹介しようか、悩んでしまい筆が進まなかったということだ。

今回は、もう面倒なのでばっさりと割り切って、簡単にますゐの紹介をするにとどめる事にする。こだわり出すと、延々と書きつづってしまいそうだから。

はい、お待たせです。ここからようやく「ますゐ」の紹介だよー。

肉のますゐ外観

これが、「肉のますゐ」外観だ。広島市中区、八丁堀交差点のすぐ裏手に位置する。ま、早い話広島市の超一等地の部類だ。しかし、ちょっと一本裏道に入っているため、急にこんなお店が出てくるのであった。

そもそも、繁華街に精肉屋・・・しかも見るからに庶民的な・・・があるというのは変だが、職住隣接の中規模都市・広島だからこそできるのだろう。

見たまえ、この写真を。

ママチャリが店の正面にデーンと駐輪されている。お客さんの邪魔だって、おい!・・・ってのは野暮なツッコミであり、いかにこの肉屋が庶民的な位置づけにあるか、分かろうもんだ。

しかし、なぜ「ますい」ではなく「ますゐ」なのか、その理由は誰も知らない。「駒形どぜう」みたいなものなんだろう、と一人勝手に納得しているが、何か深い訳があるのかもしれない。無いのかもしれない。

「ゐ」という言葉は、「わ行」に位置する音であり、正確には「うぃ」と発音しなければならない。われわれはいつも「ますい」とよんでいるが、実はこのお店は「ますうぃ」なのかもしれない。これも、誰も知らないし、分からない。お店の人に聞くこともしない。そんなのはどーでもいいからだ。

どーでもいいといえば、この「肉のますゐ」の看板の両脇には、

SUKIYAKI AND FOREIGN FOOD すき焼きと洋食の店ますゐ

と書かれている。ううむ、「洋食」を英訳すると「FOREIGN FOOD」なのか!?まあ、そんなのはどーでもいい。

いかにも洋食屋っぽいサンプル

だが、すき焼きもしゃぶしゃぶもやっているなぜわれわれがこのお店を愛するのかというと、別に肉が特売されているという訳ではない。この写真だと、正面の精肉コーナー入り口の右側に・・・「営業中」の看板が出ているのが見えるだろうか。そこに、直営レストランがさりげなく存在しているのだ。そう、このレストランが今回話題にしようとしている「広島の良心」、ますゐ食堂なんである。

入り口に立つと、目の前にメニューのサンプルがずらりと陳列されている。まあ、精肉屋直営食堂ということもあって、基本的には肉料理のお店だ。トンカツをはじめとして、すき焼き、ステーキ、しゃぶしゃぶ、なぜかカレーやスパゲティもある。まあ、これだけだと、それほど珍しくもない。

しかし、ますゐには必殺技が二つある。

この必殺技があるために、僕らはいつもますゐにハートを鷲掴みにされているのであった。逃げようと思っても、逃げられない。いや、そもそも「逃げよう」という気になった事がないので、この表現は間違いか?

何しろ、実家の広島に年2回しか帰省しないおかでんが、その僅かの滞在期間にどこに行くのか?といえば、決まって「ますゐ」なのだった。普通だったら、広島人の主食である「お好み焼き」を満喫しに行くべきだ。「ああ、やっぱ東京の広島風お好み焼き屋はイマイチなんだよな」なんて苦笑しながら、本場の味を楽しむべきだ。これぞ、広島人の誇りとプライド。・・・あれ、言っている意味が一緒か・・・

もったいぶらないで、正体を明かすと、これだ。

サービストンカツ350円

とんかつ。

ますゐでは、この料理を「サービストンカツ」という。なぜサービスかといえば、ライスが付いてくるからだ。お値段、なんと350円。

どうです、これで350円ですぜ、安いでしょう。「だって、広島でしょ?物価安いんでしょ?」なんて言われそうだが、案外広島だって食べ物の価格ってのは安くはない。東京大阪の大都市圏の方が価格競争が激しくて安い場合だってあるくらいだ。そんな中、350円でトンカツ。しかもライス付きときたもんだ。

もちろん、安い故に肉が薄い。時には、油の熱で海老ぞり状態のカツが出てくることもある。そんな時のためにか、下にはポテトサラダとキャベツ(温野菜の時と、千切りの時がある)が控えていて、何とかカツのバランスが崩れないように支えている。そんな、怪しいとんかつだけど、ご飯付きということもあって十分に胃袋を満たしてくれるのであった。

これが第一の必殺技。「安い」、ということ。しかし、たかがそれだけだったら魅力は薄い。第二の必殺技は、カツにかかっているソースにある。ここ、ますゐでは大抵の料理に特製のソースがかかっているのだが、それが病みつきになるジャンクな味わいであり、われわれを虜にしてやまないのだ。

ドミグラスっぽくもあり、そうでもないようであり。隠し味にソースが入っているようであり、そうでないようであり。何とも、怪しい味だが、美味い。美味いけど怪しい。われわれは畏敬の念をこめて、これを「ますゐソース」と称している。もう、そういう名称を新たに付けないと収まりがつかない、新手のソースなんである。

その「ますゐソース」が、カツにたっぷりとかかっている。写真を見てもらえば分かるとおりだ。結局、「カツを食べるためにソースをつける」のではなく、「ソースをいただくためにカツがついてくる」という、本末転倒な状態になりそうになるのであった。それくらい、インパクトが強い。

しかも、だ。このお店で頼む料理のうち、相当数がこの「ますゐソース」に汚染されている。ハンバーグステーキを頼んだとき、出てきた鉄板皿の上でぐつぐつとますゐソースが煮えたぎっているのを見た時は「まあそんなもんだろう」と大して驚かなかったのだが、タンシチューを頼んだ時、大降りのタンにますゐソースがかかってきたのにはさすがにギョッとした。

カツカレーはますゐソースの味

さらに、カツカレーのルーがえらく黄色っぽいなあ、と思って食べてみたら、カレーのスパイス風味を押しのけて口腔内に「ますゐソース」の味わいがむぅわぁんと広がったのには驚嘆させられた。ここにも光臨されるのか!と。

まあ、そんなこんなで、非常に地味ながらもお客を飽きさせないB級グルメスポットとして、われわれは愛しているのであった。

いつの日か、アワレみ隊では盆と正月に「ますゐ詣で」と称して、ますゐでしこたま食べまくる会を開催するようになった。ふとアワレみ隊メンバーを見回してみると、時々あのますゐソースを摂取しないと禁断症状が出そうな奴らばかりだった。

「ますゐジャンキーめ」。これは、決してわれわれにとっては蔑称ではない。広島から遠く離れた地で生きている人間からすると、尊称だ、と胸を張って自慢したい。

(つづく)

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